駿河湾深海生物館
2007年のある日のこと。戸棚の引き出しから「村立 駿河湾深海生物館」(静岡県田方郡戸田村)というパンフレットを見つけた。両親がヒマにまかせて出かけた際のモノだろうが、デザインと色あせ具合からしてどうやら最近のものではなさそうだ。
パンフレットに挟まっていたチケットの裏を見ると「日本とソ連の友好は、ここ戸田の港から始まった。」と書かれている。現在のロシアがソ連と呼ばれていたのは1991年までなので、最低でも16年ぐらい前のものだと思われる。
中を見ると奇妙な深海生物の写真と説明があって、とても行ってみたくなった。そこで、試しにパンフレットに記載された番号に電話してみると・・・つながった!電話で道筋を教えてもらい、いざ戸田港へ。
手書きの味のある看板に従い辿り着いた湾の先端。松林に囲まれたその中に、ひっそりと二棟の建物があった。
「駿河湾深海生物館」は、その名の通り深海魚に関する資料や標本が展示されているが、「戸田造船郷土資料博物館」にはロシア軍艦「ディアナ号」の造船資料を中心に、明治百周年事業として作られたものが保管・展示されている。
入館料は両館共通。
ところで、現在のチケットの裏にも「日本とロシアの友好は、ここ戸田の港から始まった。」と書かれているのだが、これについて簡単に説明する。
日本の開国を求めて来航したのは、ペリーだけではなかった。教科書には載っていない歴史。歴史というのは人の数だけ存在する。深海生物に惹かれてここに来なければ、一生知らなかった話だと思う。
建物の前にはディアナ号の錨と、在日ロシア大使館大使による記念樹があった。
ロシア大使の名前は、ポリヤンスキー大使とある。この名前にあのスナック菓子が頭に浮かんだのは、たぶん自分だけではあるまい。
そして階段を挟んだ反対側には、「日本最初の洋型造船に灯火を掲げた人々」の名前が刻まれた石碑。石碑の上には彫像が立っていたのだが、この彫像、全裸(ゆえにフルチン)の男性二人。お互いの右手を錨に添え、左の男性は右の男性の腕を抱くようにして立っている。
もう、いい加減いい年してチンコに反応するのはどうかと思うが、気になる。何故に全裸。
さて、肝心の「駿河湾深海生物館」の館内はといえば、駿河湾の深海に生息するタカアシガニ・メギスなどの深海魚をはじめ学術的価値の高い生物が約300種・約1,000点も展示されている。新種の鮫、オロシザメの標本があるのは、唯一ここだけ。
まあ、巨大な理科室みたいな雰囲気だ。標本なので、ビンの中で白っぽくなったりしたものが棚に並んでいる感じ。深海に住むこともあって見た目がグロい魚が圧倒的だが、タカアシガニ以外の甲殻類も多い。
そんな中で、圧巻は深海ジオラマ。
実際は左写真の横長2倍のジオラマだ。写っているのは脚を広げると3メートルのタカアシガニと、体長2.9メートルの日本一大きいサケガシラ。(トイレの案内板にも登場)
ココは記念撮影コーナーになっていて、タカアシガニの前には椅子が置かれている。カメラを置く三脚も設置されているので、ジオラマに自分も交じって写真を撮ることで大きさを実感できる。
個人的に勉強になったのが、タカアシガニの交尾。動物はみんな後背位だと勝手に思っていたのだが、このタカアシガニはどうみても対面座位。
そういえば、自作カレンダー用に描いた甲殻類の交尾図があったはず...とハードディスクを探る。ザリガニは正常位で描いていたものの、カニに至っては...交わってない。これはひどい(笑) でも甲殻類の正しい性知識を学んだので、今後は大丈夫だ。
帰り際「駿河湾深海紳士録」という深海の魚介類が写ったレアなポスターを買った。壁に貼ったら、間違いなくそこだけ理科室になる雰囲気のポスターだ。村が作っているので、村長の挨拶が載っているのも見逃せない。
実はこのパンフレットを見つけるまで、駿河湾が深海だということを知らなかった。
海洋動物学では水深200メートル以上の太陽光が届かない深さの海のことを「深海」と言うそうだが、深海とはマリアナ海溝のことだと勝手に思い込んでいた。何というアホさ加減。深海は意外と身近にあったのだ。
駿河湾の周りを歩いてみると・・・
おや、何か白いモノがゆらゆらと。
深海魚の死骸だった。おぇ。
こぢんまりした資料館ながら、深海魚にロシアとの友好の歴史、得られるモノは意外と多い。漁港には深海魚料理を出すお食事処もある。夏は湾で海水浴が楽しめるので、子供の夏休みの自由研究やら旅行に頭を悩ますお父さんには、一石二鳥の場所かもしれない。
最深部は水深2,500mという日本一の深さを誇る駿河湾。さすが奥が深い。
最後に番外編。深海魚について予習をしてから出かけたい人にオススメなのが、ゲーム感覚で楽しめるサイト「深海ワンダー」。文部科学省の子供向けコンテンツですが、大人も十分楽しめます。